ベルナール・ビュフェが20歳の若さで画家として注目を浴びたのは1948年。第二次世界大戦のあとのフランスで、人々がナチス占領下の抑圧から解き放たれ、長く渇望していたあらゆる文化を楽しみ始めた時代でした。さまざまな分野の文化人たちはカフェに集い議論をかわし、若者たちはカミュやサルトルの思想に熱狂しながら新しいファッションを生み出し、ジュリエット・グレコが歌い、マイルス・デイヴィスはクールなジャズを奏で、ブリジット・バルドーがスクリーンを賑わせる…ビュフェはまさにそんな時代を生きた画家だったのです。
本展では、ビュフェが画家人生でいくども描いたパリ風景の作品を中心に、フジタやユトリロ、グリューベルら、ビュフェ以前の画家たちの描いたパリ、サン=ジェルマン=デ=プレ界隈を舞台に新しい文化を生み出した、時代を代表する文化人たちのポートレート、そしてジェラール・フィリップやジャンヌ・モロー、ジャン=ポール・ベルモンド、ブリジット・バルドーらの活躍した当時の映画ポスターや資料なども展示します。ビュフェの愛妻アナベルも、ビュフェと出会う前からモデルや歌手として活躍し、サン=ジェルマン=デ=プレを特別な場所にしていた女神(ミューズ)のひとりでした。会場のBGMでは、アナベル自身、そしてアナベルとも親しかったジュリエット・グレコの歌声や当時のジャズも流れます。
画家としてデビューするために制作に勤しんでいた10代後半のビュフェは、当時パリで広まっていた「シネクラブ」で、友人や兄夫妻とともに映画を楽しんでいたといいます。ビュフェの人気が高まっていたころは、「ヌーヴェルヴァーグ(新しい波)」が現れ、フランス映画界が次々と意欲的な傑作を生み出しはじめた、まさにその時代でした。ビュフェは、彼の人気がピークにあった1958年、第11回カンヌ映画祭の審査員として招かれてもいます。1950年代後半からその後のフランス映画のポスターで、当時の雰囲気をお楽しみください。
さあ、ビュフェの作品にみちびかれて、「あのころのパリ」へ。