民俗学でいう「むら」は地方自治体としての「村」とは異なり、村落内のツボ(坪)とよばれる小集落を示し、現在でも行政が「地区」として把握する集落単位です。農山漁村における生活・生産の共同と連帯の組織であり、周辺に広がる里山や田畑、沼沢、浜辺などの領域を含みます。
むらは、家々の生活・生産に欠かせない水利、漁場、山林利用なででは、隣接するむらと連帯してものごとを処理することもあります。若者組、子ども組などや庚申講、念仏講などの講中も組織されます。
そのようないわば団体組織であるむらは、昭和30年代以降急速に過疎化が進み、併せて農業の根幹である米づくりの機械化が始まり、やがて家庭電化・マイカー時代をむかえ普段の生活は激変しました。
本書に掲載した写真は、むらがまだ健在だった昭和30年代から40年代のものが大半です。当時の生活を明確にあるがままに示してくれている写真は、注意して見ると主題目とは別に実にさまざまなものが写し込まれています。その偶然に記録されたものにも目を向け、一枚の写真が語る「こえ」に耳を傾けたいと思います。
取り上げた一枚一枚の懐かしい写真から、いまも変わらぬ庶民の心意を感じとっていただければ幸いです。