1959年に一原有徳が発見した独自の「モノタイプ」技法は、偶然の発見から生まれ、すべてスクレイパー(へら)を使った一原の手の動きの痕跡です。従来の版画が複数性を特徴としているのに対して、1回しか刷ることができません。その独自性は、日本の版画界に大きな衝撃を与えました。
モノタイプ同様に、凹凸のない版に置いたインクをそのまま紙に写し出すオートマティックな手法に「デカルコマニー」があります。市内で額縁店を営む傍ら日本画を描いていた宮井保郎は、顧客の紹介からデカルコマニー版画に挑戦します。ガラスの上に絵具で色を置き、時間の経過を観察しながら紙に写し取ると、美しいマチエールを奏でます。宮井の幻想的な世界を顧客の一人であった一原も高く評価しました。額縁屋と作家の枠を超え、店先でアドバイスや交流を続け、宮井は一原を「先生」と慕いました。
そんな二人の絆と、モノタイプとデカルコマニーが生み出す不思議な魅力をご紹介します。ぜひお楽しみください。