平野杏子は1930年、伊勢原生まれ。神さびた大山信仰の地は古代の南関東でも多くの古墳が存在することでも知られ、画家の制作活動の大きな規範となりました。1954年から現在に至るまで70年間を平塚市に過ごし、その間に様々な面で地元平塚の文化振興に尽力してきました。
現在、女性の活躍推進が社会の課題となっていますが、平野が美術の道を志したのはいまだ女性画家が稀であった時期であり、結婚や育児と制作の両立という課題に向き合いながら画業を切り拓いていきました。
また90代となった現在も活き活きと新たな画境を求め制作する姿勢からは、現代の長寿社会のなかでいかに生きるかという範をわれわれに示しているように感じます。
その画業は具象から抽象、平面から立体まで多岐にわたりますが、、われわれが太古から慈しみ祈り根を張って生活してきた原初的な風土や歴史がテーマとなっています。
あるいは画家が共感する文学が裏打ちとなり、また平塚の出繩のアトリエで感じた自然、病を得て夢に現れたイメージ、仏教的な教えや人々の信仰が表現されています。
さらに韓国・慶州で出会った磨崖仏の拓本制作は画家の大きな功績であり、また女性画家による美術団体「潮会」での活躍等で洋画壇で大きな役割を担いました。地元平塚に目を向ければ総合公園のモニュメント「トキオコシ」の設置に加え、アトリエには近隣の画家や評論家が集い、その交流は平塚の文化振興の原動力となりました。
本展は県内の美術館では平野杏子の15年ぶりの本格的な回顧展であり、その代表作や初公開の作品を含めたおよそ60点により、その画業を振り返ります。