作品が、光を運ぶ舟であれたら・・・
人は「クモの巣」にどんな印象を持つだろうか?
誰も立ち入らない埃っぽい部屋にところかまわず張られ、知らないうちに絡みつくやっかいなもの?
えさになる虫がかかるまで、じっくり待つための罠?
馬場洋は、木漏れ日の下で小さな朝露がきらきらと輝いているクモの巣を「光を運ぶ舟」だと表現する。
クモが風雨にさらされながらも何度も繰り返し巣を編む様子と、心が動かされたものや景色を絵にしようとしては破綻してまた再構築し、画面に定着させていく自身の制作スタイルとを重ね合わせ、そこで生まれた作品が、朝露を受けて輝きを放つような「クモの巣=光の舟」であれたらと。
作品は、モチーフと出会ったときの場面や気配、美しくて描き留めておきたいという気持ちなど、当時の心象を思い出すことのできる窓のようだと語る。鑑賞する私たちは、首のない人形や、眠ったライオン、つややかな果実を見ながら、馬場洋の心の中をのぞき見するような気持ちにさせられる。「観る側の人間が自由に解釈するのが絵画のおもしろいところ」だと、哲学者のようなまなざしを向ける画家に、私たちはいつの間にか絡めとられているのかもしれない。
本展覧会では、筑波大学大学院在学中から近年に至るまでの作品、約40点を展示いたします。
精緻な写実表現を用いながら心象風景を描き出し、観るものの想像力を無限に掻き立てる、現在 二紀会を中心に活躍中の画家 馬場洋の世界を存分にお楽しみください。