絵は対象物を観ながら描く。
“絵”を描くのだから観て描くのは当たり前では
ないかと思われるかもしれないが、
例えば人が幼少期に初めて描く絵のことを思う
と、それは記憶の再現であって、対象物を観なが
らにして描いた絵というわけではないことが分
かる。絵は記憶であり、記号である。
人は案外、観て描いてはいないのだ。
観て描くといっても、ごく短い時間で描く線描と、
時間をかけた写実的描写とでは、その見え方が
違ってくる。何でもない風景を描いているのだ
が、この見え方の違いが表現として面白くあれば
と思う。 美崎慶一