浮世絵版画は、絵師、彫師、摺師の分業制により量産された商業出版物です。その企画から販売までの統括を行ったのは、浮世絵制作のプロデューサーともいえる版元(地本問屋)でした。叙情豊かな風景表現で知られる浮世絵師・歌川広重も、企画者である版元から依頼を受け、コンセプトや制作コストなどの意向に合わせて作画を手掛けました。その画中を注視すると、広重の落款だけでなく版元の印章も見付けることができます。
本展では、出世作「東海道五拾三次之内」や最晩年の傑作「名所江戸百景」を通して、保永堂(竹内孫八)、紅英堂(蔦屋吉蔵)、魚屋栄吉など、広重の画業を支えた版元たちに注目します。そして、商品展開や販売戦略といった浮世絵出版流通の様相を探ります。