厳冬の凍てつく夜、時に姿を現し、日が登る早朝にはひっそりと姿を消すーこの氷の結晶は、繊細で、微かな温度の上昇、湿度の変化によって消え去ってしまいます。この自然が描く氷の模様は、予期なく現れる、偶発的ドローイングです。極地方で見られるオーロラも、太陽と大気周縁の影響を受けて予期なく現れ、空を照らします。これら自然現象は荘厳であり、存在し続ける生のエネルギーの本質の象徴であるでしょう。一瞬に美を放つクリスタライズされた生ー我々が今、生きている過酷な世界と相反しながらも自然は我々の周りで息づいています。
2023年12月 米田知子
20世紀の波に翻弄された人物の内奥に迫る「見えるものと見えないもののあいだ」、かつてそこに発生した出来事の痕跡を切り取る「Scene」など、米田知子の作品は常に歴史性や場の記憶と深く結びついている。そしてその制作の根底には人類を含めた生に対する真摯な想いと平和への切なる願いがあるということは思いのほか語られてこなかった。今展は米田が自然界の儚くも雄大な存在にフォーカスを当て、「私たちは皆、制御不能な大きな一体感の中にいる小さな存在」であることを示唆する作品で構成されている。
2013年から23年までに撮影された氷晶シリーズはフィンランドの凍てつく寒さの中で撮影されてきた。これらの小さな氷の結晶は少しの環境の変化で消えてしまうが、繰り返しその姿を地上に現すという自然のサイクルを感じさせる存在でもある。同じくシベリア鉄道旅行中に撮影した「氷晶、シベリア I・II」(1998/2023)、ラップランド(フィンランド)・キルピスヤルヴィ村で撮影されたAuroraシリーズ、17世紀絵画でヴァニタス(虚栄)の象徴として描かれるシャボン玉をモティーフとした作品など約24点が初披露となる。
様々な人々の記憶や歴史の痕跡の撮影を続けた米田は常に自然を通した生への眼差しを持ち続けてきた。普段と異なる米田作品の魅力にどうぞご期待ください。
2023年12月 シュウゴアーツ