京都国立博物館が、わが国屈指の古写経コレクションである守屋孝蔵氏収集の古写経268件の寄贈を受けて今年で丸50年になります。これを記念して、国宝1件、重要文化財35件、重要美術品37件を含む守屋コレクションを中心に、中国・朝鮮・日本という漢字文化圏で書写された古写経の数々、約160件を展示します。
ただただ誤りなく書き写すという行為の連続が「写経」ですが、その行為によって書き写された文字は、その瞬間に「人言」から「仏言」に昇華します。印刷技術が発明され普及するまでは、経典を手で書き写すという行為のくり返しこそが経典を広め増やす唯一の手段でした。
仏教伝来以来、わが国では盛んに写経が行われ、奈良時代には写経体と呼ばれる端正で力強い筆致の経典が生み出されます。また平安時代中期以降には、浄土への願いと祈りをこめて、経典を豪華に善美を尽くして装飾しました。
この展覧会ではこうした作品のほか、ルーペを使わないと読めないような細字経(豆経)、雄渾な筆致の中国南北朝時代の写経、紺紙に白い銀字が冴える高麗写経など、書としての美しさを兼ね備えた古写経の優品が一堂に会する絶好の機会となっています。 経典であるが故に大切に収納され、保管されてきた歴史を物語る経箱類なども含め、聖なる文字、古写経の世界に触れていただきたいと思います。