このたび当館では、勝平得之(明治37年―昭和45年)の生誕100年を記念して「生誕100年 知られざる勝平得之 ―故郷を見つめる新しい目―」を開催いたします。「秋田風俗十態」や「米作四題」、「農民風俗十二カ月」など、今では見られなくなってしまったなつかしい秋田風俗を描く得之の作品は、現在も多くの人に親しまれています。大判の木版画という、技術的にはたいへん難しい手法を使いながらも、その素朴さを失うことのないあたたかい画風が、見る人をひきつけるのでしょう。
しかし、若き日の得之が木版画の道を選び、県内の風俗を終生の画題と定めるまでにはいくつかの大きな出会いが必要でした。昭和2年、農民美術運動の講師として大湯にやってきた日本美術院の彫刻家・木村五郎は、生活に根ざした風俗美のおもしろさについて、得之の目を開いていきました。木村が教えたのは農村風俗をかたどった木彫り人形の作り方だったのですが、素朴な味わいの人形は東京で飛ぶように売れたのです。昭和10年に秋田を訪れたドイツ人の建築家ブルーノ・タウトは、得之とともに県内を旅し、その木版画を絶賛して、故郷を見つめる得之の美意識が、世界に通じるものだという確信を与えました。富木友治、武藤鉄城らを始めとする民族学者たちとの交友も、風俗研究の面白さと意義とを考え続ける大事な源です。また、さかのぼってみれば、幼い得之に、さまざまな和紙に対する親しみや手わざへの共感とを与えた、寡黙な紙漉き職人だった父親の存在こそ最大の出会いと呼べるのかもしれません。
本展では、得之の代表作を一堂に展示するとともに、こうした軌跡をあとづける自筆の記録や書翰類、スケッチ、木彫り人形などの史料をできる限り集め、画業を立体的に再現します。秋田に留まり、秋田を彫り続けた画家の生涯と、それを支えた故郷への愛の強さとを、あらためて感じ取っていただければ幸いです。