1926(大正15)年、山形県高畠町に生まれた師岡和彦(1926-2012)は、通商産業省に勤務する傍ら、1976(昭和51)年から現代写真研究所で風景写真の第一人者・竹内敏信に師事します。まもなく各地の民俗芸能の撮影を始めた師岡は、1982(昭和57)年、岩手県大迫町(現・花巻市)の岳(たけ)地区で早池峰山伏神楽と出会います。
この神楽は、早池峰山を霊場とする修験山伏の祈禱の舞が、神楽として舞い継がれてきたもので、500年以上の伝統を持ちます。舞の形や衣装、道具などに、能大成以前の姿を残していると言われる稀有な民俗芸能であり、1976(昭和51)年に国の重要無形民俗文化財に指定、2009(平成21)年には、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。
岳流早池峰山伏神楽の舞を目にした師岡は、神楽に対するイメージが覆るほどの衝撃を受け、以来20年近くに亘り、同地域の神楽を撮り続けました。大迫に通いはじめて数年後には、岳神楽の流れを汲む、隣町の東和町(現・花巻市)の石鳩岡神楽にもレンズを向け、師岡の山伏神楽撮影の旅は40回を超え、使ったフィルムは1000本近くに及びました。1999(平成11)年、これらをまとめた写真集『風の響 早池峰山伏神楽』を出版します。2005、06(平成17、18)年には、東和町土沢で開催された「街かど美術館」に参加、撮りためた自作を公開しました。
本展では、師岡がファインダー越しに捉えた、早池峰山伏神楽の躍動する姿を中心に、大迫町、東和町の懐かしい情景を振り返ります。