「源氏絵」と聞いて、まず思い浮かぶのは紫式部によって生み出された古典文学の名作、『源氏物語』の雅な絵巻ではないでしょうか。
しかし、江戸時代の庶民に親しまれた「源氏絵」は、柳亭種彦が執筆した合巻『偐紫田舎源氏』の場面や登場人物を描いた浮世絵でした。『偐紫田舎源氏』は室町時代のお家騒動に、主人公、足利光氏の好色遍歴を絡めた『源氏物語』の翻案小説です。当時最も人気の高かった絵師、歌川国貞(三代目豊国)が挿絵を描いたこともあり、文政12年(1829)に刊行されるとたちまちベストセラーになりますが、天保の改革で咎めを受け、未完のまま発売禁止となりました。しかし、その後も「源氏絵」の人気は高まる一方で、改革が緩むと『偐紫田舎源氏』の続編が刊行され、足利光氏やその登場人物を描いた「源氏絵」が多くの浮世絵師たちによって作成されました。
本展では、「源氏絵」の代表的な作品である《今源氏錦絵合》をはじめ、三枚続の作品などをご紹介します。
平安時代の『源氏物語』と比べながら、江戸時代の「源氏絵」をお楽しみ下さい。