自然に対する独自の視点と精緻な観察に基づく作品で、戦後日本美術に大きな足跡を残した彫刻家・若林奮(わかばやし いさむ/1936-2003)。
若林のつくり出す作品は、積み重ねられた省察と深い思索に支えられながらも、寡黙で多くを語ることはありません。修辞らしき部分を一切削ぎ落として本質に迫ろうとするその禁欲的な形態、鉄や銅、鉛といった金属あるいは硫黄などの素材によって成り立つ緊張感に満ちた表面には、思索の対象に対する鋭敏な感性と制作における強靭な意志とが交差しつつ生まれる繊細な詩情と深遠な思想が漂っています。それは、彫刻とはどのように在りうるのかという根源的な問いから発するものであり、また、空間や時間を含んだ自然やそこにある事物を、自己という唯一の存在を尺度として認識しようとする、作家自身の具体的で私的な経験の証跡となるものでしょう。若林の作品が持つこのような特徴が、彼をして現代日本美術の流れのなかで重要な位置を占めさせています。
今年は、若林が歿して20年の節目にあたります。この機に、豊田市美術館が所蔵する若林作品をまとめて展示して、その作品に向き合い、改めてこの稀有な作家の思想に触れます。