シュウゴアーツは3年ぶりとなるリー・キットの個展を開催する。リー・キットは絵画を日常的なオブジェや画像、映像、サウンドのプロジェクションとともに三次元の空間において展開してきた。今回は本人が東京へ滞在し、ギャラリーでインスタレーションを完成させる。
リー・キットの活動について述べるとき、その政治的な背景について触れざるを得ない。キットは1978年に香港で生まれた。香港では2014年の雨傘運動を皮切りに高度な自治権を求めて抗議デモが本格化した。2019年には民主化運動として規模が拡大、推定参加者は80万人を超えたとされている。これに対し香港国家安全維持法が可決され、1万人以上の逮捕者、数多くの死傷者が出たことは記憶に新しい。また2022年の時点で20万人以上が国外へ流出したとされる。
徐々に抑圧される香港の政治状況を背景に、リー・キットは軽やかでユーモラスなジェスチャーで示唆に富んだ数多くの展覧会を実現してきた。しかし2019年以降の民主化運動はそんなキットをも丸ごと飲み込んだ。
多大な犠牲を払っても守りたかった自由が失われた時、人はどのようにこの世界で息を続けることができるだろうか。 制御できない怒りが心を支配した時、それを芸術表現へと昇華することができるのだろうか。 私たちはいかにして芸術の問題について語り続けることができるのだろうか。
今キットは生きるために、そして記憶を忘却しないために壁を建てる必要がある。それは彼自身を保護するものであり、その表面を示唆するものでもある。アーティストは美しい表面を作り出す。それはその裏にある何かを予感させるけれど、それ以上でも以下でもない。
実践的であったキットの芸術はかくして、絵画の形式へと回帰した。
シュウゴアーツ 2023年10月