小出麻代は、物や場所、時間や環境が人間のこころにどう作用し、そこにどのような関係性が生成されていくのかに関心を持ち、これまでに様々な土地に赴き、制作を続けてきました。そこで拾遺した言葉やオブジェクト、写真・映像・光や影などを用いた多層的なインスタレーション作品は、物や場所が持つ記憶や歴史の断片を照らすとともに、鑑賞者自身の記憶や感覚をも揺さぶり、それぞれがゆるやかに対流する場を創り出します。
第5回尼崎市文化未来奨励賞の受賞記念展となる本展「声声が灯して:The polyphony of our narratives」は、小出にとって3度目の尼崎市での展覧会となります。本展に向け再びリサーチを行なった小出は、時代や環境の変化といった大きな流れの中で、変わることを受け入れながらも、何かを続け、残してきた人々の声に耳を傾けました。本展は「人と人、人と土地が結びついていく、そのはじまりの場」であったともいえる旧結婚式場を会場に、新作インスタレーション作品で構成されます。声声が灯す先にあるものをみつめながらも、それらは鑑賞者自身をも照射し、それぞれの内に何らかの像を結ばせるものとなるのではないでしょうか。