練馬区に長くアトリエを構えていた彫刻家・古賀忠雄(1903-1979)を紹介する展覧会です。
佐賀県佐賀市に生まれた古賀は、高等科を卒業後佐賀県立有田工業高校図案絵画科に入学し、教師であった日本画家・腹巻丹丘に才能を認められました。1926年には東京美術学校彫刻科塑像部本科に入学。在学中の1929年第10回帝展に《佛心》を出品し初入選。その後帝展で活躍し、戦後は日展の評議員、理事を務めながら、日本彫塑会委員長、日本陶彫会会長などを歴任しました。古賀は、ロダンやブールデル、北村西望等の影響を受け、写実の中にやや誇張した表現を取り入れながら、安定した形態を持つ人体や動物を多く制作しています。その作品は地元の佐賀県や練馬区内をはじめ、全国各地の公共空間にも設置されています。
本展では、こうした古賀の活動の中から「塑造(像)」に注目します。明治期以降、立体制作に対しては「彫刻」という言葉がほぼ定着してきました。古賀の肩書も「彫刻家」ですが技法としては塑造を用いた作家です。木や石を彫り刻む技法「彫刻(carving)」に対し、粘土などを足し引きし形を生み出す「塑造(modeling)」で作られる塑像は、作品の制作過程や作家の姿勢に、他ジャンルとは少々異なるポイントがあります。例えば、作家が生み出したオリジナルの原型はもとより、職人の手を経てブロンズなどに鋳造されたモノが完成作とされることが多くあります。また同じ型から複数の作品が世に出ていきますが、版画のように複製性を示す記号はほとんど見られません。さらにその複製が公の場に設置されることで地域や時代に組み込まれていき、作品や作者の存在が後退していく場面もあります。塑造(像)には、美術館に所蔵され飾られるオリジナルの絵画等とは異なる視野があるのです。
本展では約30点の塑像に加え区内または他地域に設置された作品をパネルで紹介し、古賀作品の魅力はもちろん、塑造(像)を様々な側面から見て考える楽しみを提示します。