神奈川県に生まれた小田野尚之(1960~)は、美大の受験を決めた高校3年生の時に現代日本画と出会います。東京藝術大学に進学し、博士課程では保存修復を専攻。古典の模写を通して、狙った色をどのように再現するかといった経験を積みました。在学中の昭和60(1985)年に再興院展に初入選、受賞を重ねて平成18(2006)年に同人となります。
滴るような緑、静かな早苗田、廃屋や一両編成の列車など、今ではわざわざ足を運ばなければ見られない景色を多く描いています。新見市にある岩山駅を取材した《暮れゆく》では、日が落ちた秋の無人駅に明かりを灯した電車が入ってくる様子を取り上げ、この木造駅を利用したことがない人にも郷愁の思いを抱かせます。
平成25(2013)年に再興第98回院展《発電所跡》で文部科学大臣賞、平成29(2017)年には再興第102回院展《小さな駅》で内閣総理大臣賞を受賞して、長く教鞭を執った尾道市立大学では名誉教授となりました。本展では、これまでの画業をたどるとともに、せつなさやなつかしさを描き出す秘訣を探ってみたいと思います。