民主主義の崩壊、繰り返される戦争、世界各地で巻き起こる気候変動と自然災害、容赦ない無差別殺害……スマートフォンやPCの画面から流れてくる情報を眺めていると、今の世の中は悲劇に満ちているように感じられます。確かに、シリアスな社会問題は数知れず、このままでは人間社会はおろか、地球そのものが滅んでしまう日も近いのかもしれません。
でもちょっと立ち止まって、人類の歩みをもう少し長い目で見てみる。50年、100年、200年といった単位で見てみると、私たちの生活は明らかに良くなっています。「ナウ・イズ・ベター」。飢餓で亡くなる人や、戦争や自然災害で命を落とす人の数は減っているし、平均寿命は確実に伸びています。民主主義国家の数は増えているし、識字率は200年前とは比べものにならないくらいに上がっています。
gggでは20年ぶりとなるステファン・サグマイスターの個展「Stefan Sagmeister Now is Better」では、そういった広い視野から眺めた世の中の変化を、19世紀の古典的絵画を大胆に改造したり、レンチキュラーの効果を活かしたりしながら、デザインの実践として視覚化しています。サグマイスターといえば、時に皮肉を込めたショッキングなビジュアルで我々の感覚を揺さぶってきましたが、本展は、本人いわく「これまでで最も人生を肯定する展覧会」となります。視点を変えることで見えてくる、決して捨てたもんじゃない人間の営みが愛おしくなるように。
同時に、SNSをはじめとするメディアから日々洪水のように降り注ぐ、有象無象の情報を無条件に受け入れ、一喜一憂する私たちへの、チャレンジでもあると言えます。ただの楽観主義展覧会ではありません。本展を見て、何かを感じ取って、家に持ち帰ってあらためて考えてみる、そんな機会になることを願います。