本展では、館蔵品から水墨画・墨蹟の名品を展示し、深く豊かな墨色の世界をご覧頂きます。
今日、墨蹟といえば、禅宗の高僧の筆になる書のことを指します。鎌倉時代に中国から禅宗が伝えられるとともに、高僧が修行者に対して仏法の道理などを書き与えた筆跡が尊重されるようになりました。室町時代に入り、茶の湯が禅と密接な関わりを持つようになると、墨蹟は茶席の掛物としても重視されるようになります。その個性的な筆跡は高僧その人をしのぶよすがとして尊ばれ、また茶席の掛物としては表具に貴重な裂が用いられるなど、各時代の茶人たちによって鑑賞の工夫が凝らされました。本展では、中国の宋・元時代の禅僧の墨蹟を中心に、茶の湯と関わりの深い大徳寺の僧の墨蹟も展示いたします。
水墨画は、室町時代の山水画を中心にご紹介いたします。禅僧たちが美しい詩を画中に寄せた山水画は、「詩画軸(しがじく)」と呼ばれ、彼らが理想とした山紫水明の景を、繊細な墨の表現によって私たちに見せてくれます。
本展が、祖先たちの筆跡にふれることによって墨蹟・水墨画の魅力を再発見し、また、その鑑賞の歴史にも思いを馳せてみる機会になれば幸いに存じます。