鈴木ヒラクにとっての線は、言葉と絵、こちら側とあちら側、自己と他者をつなぎ、相互浸透を促すメディアです。
線をかく行為=ドローイングは、森羅万象にあまねく存在する(見えない)線の発掘であり、さらに線をトンネルのような中空の通路、あるいはチューブ(管)ととらえれば、人間と自然、主体と客体といった二項対立を越え、世界あるいは宇宙と一体化するための手段となります。
この展覧会は、最新シリーズ〈隕石が書く〉(2023年)40点による大規模なインスタレーションと、近作である〈Constellation〉(2018-21年)、〈Interexcavation〉(2019年)各シリーズからの作品、そして現地制作される壁画などを組み合わせた、鈴木ヒラクにとって過去最大規模の個展となります。
フランスの思想家ロジェ・カイヨワの著書『石が書く』(1970年)を参照したタイトルが示すとおり、〈隕石が書く〉は、宇宙空間を移動する石が反射する光の軌道など様々な記号を集積し、作家が身近な環境で拾った匿名の石が孕む膨大な情報と呼応しながら、人類史を遙かに超えた時間軸において生成され続ける線を新しい言語として画面に刻み込む試みです。
展示会場は、昨年末惜しくもこの世を去った建築家、磯崎新(1931-2022)設計による当館の現代美術棟(1997年竣工)です。磯崎は当館の建物を、作品が通り抜けていく空洞として構想しました。それと響き合うかのように、鈴木は展示室から展示室へ、描くこと/書くことの起源と未来を求めて、人類最古の壁画が残された洞窟から人知を超えて生成と消滅が繰り返される宇宙空間へと、線を連ねていきます。
過去と現在が交差する瞬間=発掘として日々線を見出し、描く/書く行為を積み重ねる鈴木ヒラクは、ドローイングの概念を拡張し、現代における表現の可能性を更新し続けています。その現在地としてのインスタレーションを、どうぞ体感してください。