1973年、奈良県立美術館の開館記念展は富本憲吉展でした。あれから半世紀―。
1973年(昭和48年)3月、竣工した奈良県立美術館の開館を飾ったのは「富本憲吉展」でした。約400件もの作品により奈良県出身の日本近代陶芸の巨匠・富本憲吉(1886-1963)の足跡を振り返ったもので、開館記念としてふさわしい展覧会であったと言えましょう。それから半世紀の間、当館では継続して富本の活動を取り上げ、作品の収集に努めてきました。
富本の陶業は、楽焼制作を皮切りに土焼・白磁・染付と多様な創作活動を展開した大和時代(安堵時代)、それまでに培った技術を洗練させ、かつ色絵磁器へと作域を広げた東京時代、そして金銀彩技法を完成させ華麗にして品格ある作品を作り出した京都時代という3つの時代に分類されます。この50年にわたる陶業は、独自の模様の探求、造形を通した美の表現、量産の試みといった課題に取り組んだ道のりでもありました。
これまでに多くの展覧会が開催されるなかで、陶芸家としての業績はもちろんのこと、陶芸に留まらない創作活動の全容にも目が向けられるようになり、デザイナーの先駆者としての側面や窯業地に赴いての活動の様子など、多角的に研究が進んでいます。また日本近代美術において富本の果たした役割を考える視点からも、今後の研究の広がりが期待されます。
開館50周年にあたり開催する本展覧会では、富本憲吉をテーマとする当館の展覧会歴をたどりながら、彼の生涯と活動を改めて振り返ります。あわせてその軌跡が示す富本憲吉研究の展望を考える機会となることを目指すものです。