小山登美夫ギャラリーでは、チェコ・プラハを拠点に活動するダヴィット・フェスルのアジア初となる個展を開催致します。
フェスルは2015年以来、手のひらに収まるようなサイズのオブジェクトを収集してきました。彼は自宅の一角のスタジオで、形・質感・色といったそのオブジェクトに内在するロジックに従い、小さく、注意深く組み立てられたコンポジションに配列します。彼は、それらのオブジェクトを隣同士に並べたり、転回させたり、織り交ぜるといった最小限の行為によって、作品を構成するそれぞれの要素を一時的に判読できないようにします。それによりオブジェクトは、観客自身の心の内にある、からまった連想や記憶の中へ次第に広がっていきます。
本展のタイトル「Hello Yuko」は、アーティストとギャラリー・ディレクターという二人の人間のやりとりとコミュニケーションを直接的に指しています。それは、他者と、身近なもの・親密なものとの定まらない境界を示し、また、現在の状況にあって身体的な接触の意味を捉えようとする試みです。日本語に翻訳していないこのタイトルは、共に在りながらも切り離された空間、つまり、前述の両者にとっての外国語を指すものでもあります。そうした中で、フェスルにとって疎外化やアプロプリエーションは、名前がわかり言語化できるほど身近な、しかし互いに全く異なる素材を合成することで、それらを「他者」そのものにしてしまう、その制作手法に内在しているといえるでしょう。本展で展示される作品たちはその本来の性質のために、仮想の無重力状態に言及しているかのようです。
本展が開催される天王洲のギャラリースペースでは、それらのオブジェクトは2つの層にまとめられています。最初の層は、壁に展示されたオブジェクト群で、日本の観客の身長に合うように構成されています。2つ目の層は床に置かれた木の板です。それ自体両義的な立場を保っており、その位置によって立方体である展示空間のボリュームのバランスをとりつつ、同時にその空間を活性化させています。フェスルはこの配置について、以下のように述べています。
「地面に近い低さで人工物と出会うこと自体、意味を含む行為であり、その土地の文脈の中ではさらに新たな意味合いを持ちます。この場合、それは例えばテーブルでの食事の場面など、私たちが慣れ親しんだそれとは異なった視点を与えます。この木の板の上には、もともとは壁に掛けられていたオブジェクトが床に水平に配置されることになり、観客はそれを上から見下ろすことになります。」
自然と人工、日常と非日常、自己と他者などの関係を、視点を転回させることで解きほぐしては再度もつれさせるような作品を、この貴重な機会にぜひご高覧ください。