2023年は横須賀美術館前庭の屋外彫刻《Valleys(2nd Stage)》(1989年制作/2006年設置)の作者、若林奮(1936~2003)の没後20年にあたります。1960年代後半に鉄の彫刻作品によって若くして頭角をあらわした若林は、2度のヴェネチア・ビエンナーレへの出品や国内外の美術館での展覧会をとおして戦後日本を代表する彫刻家として高い評価を受けました。
2003年に横須賀市に寄贈された《Valleys》が美術館前庭に設置されたのは作者没後の2006年のことです。遺志を継いだご遺族と関係者の協力のもと設置された作品は、開館から15年以上を経て繁茂する木々に囲まれ自然と一体化しつつ、ますます存在感を強めています。
今回の特集では、当館が所蔵するValleys関連ドローイングをとおして若林奮の彫刻観をご覧頂くとともに、2003年制作のドローイングと小彫刻を展示し残り少ない日々の中で制作を続けた彫刻家の姿をご紹介します。
*複数の谷を意味する《Valleys》というタイトルのとおり、この作品はもともと二列の谷として制作されました。1990年の発表時は屋内で焼きなました黒い鉄板と焼かずに錆びた赤茶けた鉄板を対比的に二列に並べましたが、横須賀美術館では作者の提案で海の塩に耐えられるよう溶融亜鉛メッキを施し、一列の谷として屋外に設置しました。