オーストラリアのメルボルンを活動の拠点とするディーン・ボーエン(1957-)はさまざまな表現方法と、その豊かな想像力とユーモアで、オーストラリアという大地のもつ風土と自然と宇宙、そこに生きる大きなものと小さなものたちを表現してきたアーティストです。
ロイヤルメルボルン工科大学で版画を学び、のちさまざまな職業に就くもみずからの創作活動への意欲は衰えず、ヨーロッパへ渡って版画工房で研鑽を積みました。フランスでは「アール・ブリュット」の大家ジャン・デュビュッフェの作品とその表現のあり方を知ることになります。
やがて、オーストラリアで最高位ともいわれるフリマントル版画賞グランプリ(1994)、さらに大阪版画トリエンナーレで特別賞を連続受賞(1994|1997)しますが、版画や絵画だけでなく、彫刻や廃材からつくるアサンブラージュにも、表現の可能性を見いだすようになりました。彫刻の多くはまるでボーエンの版画作品から飛びだしてきたような「どこか平面的」な立体であり、アサンブラージュ(寄せ集め)であり、あまたのセルフポートレートともいえるでしょう。
また、ボーエンは幼児から身のまわりに生息する生きもの、オーストラリアに固有の動物たちにも親しみをおぼえました。自刻像の頭に載るハリモグラは祖母がボーエンのツンツンと逆立つ髪をハリモグラに喩えたことから生まれたものですし、彼の作品には、ワライカワセミ、コアラ、ウォンバットのほか、架空の鳥や昆虫までたくさん登場します。さらには、人々の暮らす家と、自動車や飛行機、船といった乗り物もしばしば登場しますが、それらは私たち人間の「どこか遠くへ旅立ちたい」という願いを表してもいるようです。
私たちの周りに広がる果てしない世界へ、南半球のオーストラリアでアーティスト・ボーエンの創作の冒険はつづきます。本展では、版画80点のほか、油彩や水彩、ブロンズ彫刻、アサンブラージュ、アーティストブックなど、全150点をご紹介します。カラフルで可愛らしいモチーフをとおした、彼の自然や命へのまなざしをおたのしみください。