「鉄の芸術」と呼ばれる日本刀。優美な弧を描く姿、刀匠の技が光る地鉄、意匠を凝らした刃文―武器としての突き詰められた機能性の中に、鉄の美しさが極限まで引き出され、古今の人々を魅了してきました。
わが国では古くから、刀剣を神仏や信仰と結びつける思想が根付いてきました。記紀神話成立ころには、すでに刀剣が神威の象徴とされており、『古事記』には、神剣として名高い天叢雲剣(草薙剣)が登場し、倭建命が敵に囲まれ火を放たれた際、この剣で草を薙ぎ払うとたちまちに炎をかき消し、敵を制圧したという記述がみられます。天叢雲剣は剣そのものが神体であり、また「三種神器」の一つとして、皇位継承の証にもなっています。また刀剣には破邪や鎮守の力が宿るとして、儀式や行事で用いられ、古くは古墳の出土品の中にも儀礼的機能を持つ剣や大刀があります。時代が下ると、能や説話などの創作物の題材にもなるなど、日本文化のいたるところに刀剣に神性を見出す観念が現れています。
本展では、神仏を象徴する刀身彫刻に焦点を当てる第1章と、姫路市の神社ゆかりの奉納刀剣を展観する第2章から、刀剣を畏れ敬う日本人の心のかたちの一端を紹介します。