骨をひろう
あの時臆して拾えなかったものを、もう一度拾ってみたい。美しすぎて描けなかった銀色の空気とか、雨の中で咲いていた植え込みの花の夜の顔とか。秋の森に静かに横たわる美しすぎる死だとか。
二年前ある秋の日、私はいつものように雑木林にいた。絵の資料として地面の写真を撮るために。地面にカメラを向けながら画面越しに見ていると、落ち葉の中に青白いものが整然と並んで見えた。驚いて画面から目を離し実物を見る。背中が粟立つのを感じた。標本のように整然と並んだ鹿の骨。現世の肉は土に返し、ひとかけらも生臭いものがない。骨は一本たりとも乱れることなく、ついさっきそこにそのまま倒れたかのようだった。
赤や黄や茶色の中でそれは青白く光っているように見えた。
あまりの美しさに私は恐ろしくなった。動悸がする。頭の中で警報が鳴ったような気がした。
今すぐここを離れなきゃダメだ。
何か見てはいけないものを見てしまった。そんな気がして私は急いで逃げ出した。
やがて秋が去り雪が白く全てを覆い、そして解けた頃、どうしても気になっていた私はまたそれを見に行った。頭は斜面を転がり顎とバラバラに落ちていた。肋骨も崩れてあの時のように整然とは並んでいない。それはすでに〈骨〉になっていた。あの時の、〈見てはいけないない何か〉ではなく。
私はなぜか少しほっとしてカメラを向ける。骨と、地面の写真。でも、それはもう見てはいけない世界の秘密のような気配は纏っていなかった。あれを見てしまった私には写真はひどくつまらないものに見えた。そしてこの写真はお蔵入りとなった。
春、私は再びそこを訪れた。子どもたちが花の下でさらに朽ちて乱れたあの鹿の骨を拾い、遊んでいた。
それを見て私も過去二度も拾い損なったその骨を、今度は拾ってみようと思った。月本ちしほ