「モノ」としてではなく「形」としての意識をもって見てみると、身の回りには実にたくさんの「形」が存在している事に気づきます。本展では画家、猪熊弦一郎(1902-93)が1970年代後半から1990年にかけて、特に「形」を描いた作品の数々をご紹介します。
1975年、それまでの20年間を過ごしたニューヨークのアトリエを閉じ、東京と冬はハワイでの生活をスタートしました。南国の眩しいほどの陽光と澄んだ空気の中でより鮮明に見えた「形」をあざやかな色で描き始めたのです。丸みを帯びた有機的な形、鋭角を持つ直線を基調とした形・・・カンヴァスの画面空間に、まるで遊泳するかのごとく配された様々な形たちは、観る者に無重力の世界を思わせます。当時、猪熊の心をとらえていた宇宙空間を、画家としての無限の可能性を求める白いカンヴァスに重ねつつ自由に形を描いていたのかもしれません。
この機会に開放感のある展示空間で、猪熊がハワイの光を通して描き出した鮮やかな形たちをどうぞお楽しみ下さい。