人々ははるか昔から野山に咲く草花を愛し、その儚(はかな)い命に心を寄せてきました。平安時代の歌人・小野小町の詠んだ和歌に「花の色は 移りにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまに」というものがあります。物思いにふけっているうちに年をとってしまった自身の命の短さと、あっというまに色あせて散ってしまう桜の命の儚さを重ね合わせた歌で、時代を超えて、現代を生きる私たちの胸に響いています。変わりゆく季節を惜しみ、美しい姿をとどめておきたいという心情は、いつの時代、だれの心にもあるものです。作家たちは、季節折々の草花の姿を永遠のものにしようと努力を重ね、目にも鮮やかな作品の数々を残しています。
本展では、当館所蔵の絵画作品やガラス作品を約80点展覧し、美しい花々や荘厳な樹木の姿をお楽しみいただきます。主な出展作品は中島千波や上村松篁の花鳥画、上村松園の美人画に加えて、吉村芳生の鉛筆画や、エミール・ガレのガラス作品など。さらに、この度は広島市植物公園に協力を得て、描かれた植物について、写真パネルで紹介いたします。本展を通じて、アートと自然、双方に親しみを持っていただけていれば幸いです。