中国東北部のいくつかの都市を初めて訪れたときに僕は大きな衝撃を受けました。そこはかつて満洲国と呼ばれ、日本がその成立や運営に深く関与した場所です。当時の建築物がそのままの姿で、発展著しい中国のビル群に埋もれるようにしてありました。巨大で威圧的でありながら独特のデザインが発するなんともいえない壮麗さと美しさ、と同時に醜悪さを放つそれらの建築群に僕は一発で魅了されてしまったのです。
満洲のことをご存じの方ならよくわかると思いますが、満洲には新しい時代を切り拓こうとする「陽」の面と、満蒙開拓団の悲劇に代表される「陰」の面とが同居しています。どちらに重点を置くかによって満洲の実像はまったく異なった表情を見せますが、今も現存するこれら建築群を写真によって記録することにより、いわば歴史の目撃者として俯瞰したフラットな立場から満洲を語ることができるのではないかと閃いたのです。
中国の都市開発のスピードは想像を絶するものですから、いつ取り壊しになるかもしれず、僕はその後まるで何かに取り憑かれたかのように歩きまわり、古い建物を探し出しては撮影を行いました。その行為は純粋に楽しいものでした。フィルムに刻まれたことにより、それら建築物は80年、90年ぶりに蘇えったような感覚がありました。写真を撮る醍醐味とはもしかしたらそういうことなのかもしれないなあと改めて気づかされた思いです。記憶と記録の領域を軽々と往来できるような写真を今後とも撮ることができたら最高です。