新潟県加茂市出身の牛腸茂雄 (1946-1983) は、高校卒業と同時に上京。桑沢デザイン研究所で大辻清司に学び、写真の道へと進みました。
牛腸は、幼い時に患った胸椎カリエスという難病のために、身体・健康上のハンディ・キャップを負い、病魔と闘う日々の中で、常に限られた生命を意識しながら、人間の生理と理知の諸相への深い省察を示す作品を発表し続けました。
なかでも、写すもの(自己)と、写されるもの(他者)との間の、淡々とした眼差しの往還に、人間存在の不思議さ、はかなさ、愛おしさなど様々な思いを込めた写真集『SELF AND OTHERS』(1978年、日本写真協会新人賞受賞作)は、彼の代表作として知られています。牛腸は、かけがえのない「いのち」が輝きを放つ瞬間を、日常的なスナップのようなさりげない視点で捉え続け、「コンポラ」と呼ばれる1970年代の写真表硯の動向の上で、重要な位置を占める作家として注目されました。
本展は、生前に出版された3冊の写真集の全作品を中心に、初期作品、インクブロットやマーブリング、関係資料など約250点によって、牛腸茂雄の全貌を紹介する初めての試みであり、普遍的な人間性を示す視点に立つ、彼の作品の魅力と意味とを見つめ直そうとするものです。