亡くなった人を悼み、弔う気持ちは今も昔も変わりません。古くより墳墓には、装身具や、人物・動物を象った明器など様々な副葬品が死者のために埋葬されてきました。
仏教においては、追善供養のために仏事が営まれたほか、写経が行われ、仏像や仏画が制作されました。特に浄土思想の流行により、現世を生きる苦しみを自覚するとともに、死後に待ち受ける世界への関心が高まると、個々の信仰に基づいた多様な美術が生み出されるにいたります。仏像や仏画などのほかに、持ち主の供養のため、絵巻や手紙(消息)といった故人の遺品に、経文や印仏を摺り重ねることが行われ、さらに中世から近世には、亡くなった人の供養として肖像画が描かれるようになりました。そうしたひとつひとつの作品には、大切な人を失った人々の悲哀が込められています。
本展では、いにしえの人々が他者や自分自身の「死」をどのようにとらえ、身近な「死」と向き合ってきたのか、その結晶として生み出された美術品を通して、亡くなった人々の供養をめぐるいとなみをご紹介します。(担当 一本崇之)