公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第286回として、「庭に遊ぶ 入江英子展」を開催いたします。
陽だまりの庭に放された鶏たちが、虫をついばみ歩き回っては首を伸ばして立ち止まる。洋画家・入江英子さんは近年、鶏たちがいるのどかな風景を素朴な感性で捉え表現しています。岡山大学教育学部特設美術科在学中にバラ園を描いた作品で東光展に初めて入選しました。卒業後は教壇に立ち、結婚を機に日立市へ転居してからは子育てをしながら絵画教室を主宰、日立市展や県展などに出品し東光会茨城支部に所属して会員として活動を続けてきました。子育て中は戸外での写生が難しいため子供や静物をモチーフにして1993年日展に初入選を果たします。しかし数年後に大病を患い、更には遠く離れた故郷の母親の介護にも追われ、思うように描けない日々が10年続きました。筆を折るかとの迷いもありましたが、入江さんは描くことを諦めませんでした。
やがて、介護のさなか実家の物置を片付けている時に古い小屋の佇まいに魅力を感じて、納屋やそこにある古い道具、ドライフラワーなどを組み合わせて画面を構成するようになります。「自分がかつて使ったことがある馴染みの道具類を描きたかった」と入江さんはいいます。そして古い物を描き続けるうちに、納屋の前に鶏を描き込みたいと思うようになりました。幼い頃、飼っていた鶏が産んだ卵を取りに行った記憶があり、入江さんにとっては鶏も馴染みのある身近なモチーフのひとつだったのです。
特定の誰かに師事することなく独学で描いてきた入江さんは、東光会の研究会で*故・森田茂から「何でも自分が感動すれば描けるよ」と言われた、その言葉をずっと大切にしてきました。感動をどう表現するかを常に考え、昨年の自分の作品を隣に並べてそれを超えるべく、入江さんは今日も制作に励んでいます。
今展は入江さんの優品18点を二期に分けて展示いたします。
公益財団法人 常陽藝文センター
*森田茂(1907~2009)…現在の筑西市出身。厚塗りで強い筆致の重厚な油彩画で、主に黒川能をテーマに描いた。日展、東光会で活躍し文化勲章受章、日本芸術院会員となった。
「感動をどう表現するか」を心に念じながら描いていますが、いつも力不足で悔しい思いをしています。「どこまでも目の前にあるモチーフに感動する気持ちを大事にして、根気強く描写力を磨くこと」をモットーに描き続けていこうと心がけています。
入江 英子