公益財団法人常陽藝文センターでは郷土作家展シリーズ第282回として、「碧き炎 井上英基展」を開催いたします。
陶芸家・井上英基さんはのびやかなロクロ挽きの造形に、「碧彩釉」と名付けた深いエメラルドグリーンの釉薬が映える作品で高い評価を受けています。碧彩釉はドイツ留学中に開発した釉薬の一つですが、帰国後は日本では色がきついと感じてしばらく使うことを躊躇していました。しかしドイツで学んだ、釉薬を重ねてグラデーションを出す方法をさらに研究して、鮮やかな青緑を活かす作品を模索します。2015年にはエメラルドグリーンから金茶色を経て底部のアイボリーに連なる大鉢「碧彩鉢」が日本陶芸展で大賞・桂宮賜杯を受賞して、碧彩釉は井上さんの作品を象徴する色になりました。
井上さんは子供の頃から日展を中心に活躍してきた陶芸家である父・井上壽博さんの仕事を手伝っていました。17歳の時に陶芸家になると決意した後、ドイツでの父の個展に同行、共に窯業地などを巡っている時に偶然、壽博さんと面識のあった国際陶芸アカデミー会員のベンドリン・シュタール氏(1922~2000)を訪問する機会を得ます。井上さんはシュタール氏に弟子入りを認められ、日本で基礎を学んだのちにドイツに渡りシュタール氏と現地の大学で釉薬などの研究を深めました。帰国後、2004年に笠間に窯を構えました。
釉薬での表現を追求する井上さんは、ロクロ挽きによる成形にこだわり40キロもの粘土を一気に挽き上げます。海の碧さを思わせる碧彩釉からのグラデーションと、結晶のような模様は、一本挽きでしか表現できないシンプルな曲線の大きな器だからこそ引き立つのです。
またJR東日本の豪華寝台列車「TRAIN SUITE四季島」が日本海ルートを走る際に提供される和食で、碧彩釉を用いた湯呑が採用されるなど、井上さんの活躍の場は多方面に広がっています。
今展では日展と現代工芸美術展出品作を中心に優品22点を二期に分けて展示いたします。
公益財団法人 常陽藝文センター