歴史学者として大きな功績を残した津田左右吉(1873~1961)は、今年生誕150周年を迎えます。津田は12歳で小学校を卒業して名古屋に進学するまでの多感な少年時代を加茂郡栃井村(現在の美濃加茂市下米田町東栃井)で過ごしました。昭和35(1960)年には美濃加茂市の名誉市民第一号となっています。
津田は美濃加茂で過ごした子供時代を、晩年になってから「子どもの時のおもひで」という文章に綴っています。「子どもの時のおもひで」では、津田少年を育んだ自然の風景、小学生時代の勉学について、そして津田自身が「やまが」と呼んだ下米田での津田家の暮らしぶりなど、さまざまな内容が語られます。この文章は『おもひだすまゝ』という本の付録として津田が75歳の時に刊行されたものですが、津田の見ていた景色や経験が鮮やかに描かれており、ここに記された内容は、津田にとって忘れがたく思い出深い記憶であったのだと思われます。また、津田が過ごした生家は移転され、現在は津田左右吉博士記念館※として公開されています。
今回の展覧会では、津田が残した「子どもの時のおもひで」から、津田の記憶に残る情景や経験についての文章をひもとき、津田少年が接した美濃加茂の風土や小学生時代に受けた教育などが、のちに歴史学者として大成する津田にどのような影響を与えたのかを考えます。また、「子どもの時のおもひで」の記述を、歴史学などの研究成果や地域の様子と照らし合わせながら、「子どもの時のおもひで」の歴史史料としての側面にも迫りたいと思います。
時代を超えて津田左右吉の「おもひで」が私たちに語りかける声を皆様にお届けできれば幸いです。