こころの人 観察の人
精神科医として統合失調症治療の分野で大きな業績を残した中井久夫さん。1995年の阪神・淡路大震災時には被災者の心のケアに尽力し、その取り組みが災害時における心のケアの必要性を広く認識させるきっかけとなりました。
同じく震災直後に、ギャラリー島田・島田誠(当時、海文堂書店代表)は「アート・エイド・神戸実行委員会」を立ち上げ、文化復興活動に取り組みました。
1997年におこなわれた島田との対談は中井久夫さんの著作『戦争と平和 ある観察』(人文書院、2015年)に収められましたが、その「増補新装版」の出版が準備されていたさなかの昨年8月8日、中井久夫さんは逝去されました。
『戦争と平和 ある観察』では自身の戦争体験にも基づきながら、「人類史以来の人災」たる戦争をめぐって、また平和実現のための条件をめぐって、透徹した分析が加えられています。そして島田誠との対談「大震災・きのう・きょう 助け合いの記憶は『含み資産』」では、震災直後の神戸に出現した「共同体感情」について、歴史的見地から深い洞察が語られます。
本展では『戦争と平和 ある観察』のご紹介を中心に、ご家族をはじめ、親交の深かった皆さんが所蔵されている貴重なお手紙や自筆原稿等を展示します。類まれなる臨床家にして理論家、卓越したエッセイストでありまたヴァレリーやカヴァフィスらの詩の翻訳者―中井久夫さんについて改めて多くの方に知っていただくとともに、追悼の場となることを願っています。