1と9の間を行き来する数字を用い、宮島達男は、誕生から死に至るまでの生命、そしてその他者への関係性を、ユニバーサルな記号の反復によって表現してきました。数字をともす個々のカウンターは、規則的なグリッドやデジタル回路、または有機的なフォルムのうちに並べられ、たえまなく変化し続ける光の明滅によって、鑑賞者を瞑想的な内省の体験へと誘ってきました。
本展で発表される新作シリーズ「Numerical Beads Painting」において、LEDの瞬きに代わって用いられるのは、1から9までのアラビア数字が刻まれたアクリル製ビーズです。キャンバスに引かれたグリット線上の数字は、全体に対するビーズの占有率を定め、コンピュータープログラムでランダムに算出させた設計図面に従って配されています。賽を投げて乱数を発生させるように、自然界における自然淘汰や突然変異など生命のふるまいを感じさせる手法は、その後、数字の隙間をぬって絵の具を乗せていく作家の手作業へと導かれていきます。空白の領域には、赤・青・黄・金・銀・黒で描かれた色彩のレイヤーが広がり、数字の間隙を縫うように生命の分布とその不在がマッピングされ、その境界が丹念にかたどられています。絵筆を手に絵画空間の永遠性へ向き合い、静止したビーズに動的な視覚効果を加えることで、記号が生みだす抽象化のプロセスを明らかにすると同時に、個々をつなぐ関係性の手探りの回復と集合性への考察がいっそう深められているのです。
こうした出来事の終わりのない関係性やその広がりへの作家の関心は、《Numerical Beads Painting - 008》(2022年)において、新たな局面を迎えます。達観した白い静かなキャンバスから、個々の生命を示唆する無数のビーズが飛び出したかのように床に散らばり、平面と空間を隔てるメディアの境界を超えていきます。数字をカウントダウンするパフォーマンスから、市民参加を通じて芸術と社会をつなぐプロジェクトまで、常に時代の不確定性に身を投じてきたアーティストの時間と空間に関する探求が、また大きな概念的な謎をうみ、本展を訪れる鑑賞者に投げかけられます。
宮島は、90年代はじめ、パリの手芸問屋街で偶然見つけた数字のビーズから、本シリーズの着想を得たといいます。アクセサリーや数珠のように、個々のユニットを連ね結ぶ形状は、やがて集合から解け、組み直されるべきものなのかもしれません。終わりなく繰り返される営みは宗教観のうちに結びつき、複雑な世界に開かれた生命や個々の関わりについて神秘を解き明かしながら、混迷する時代に一筋の光を指し示しています。
それは、変化し続ける/それは、あらゆるものと関係を結ぶ/それは、永遠に続く-宮島達男