タカ・イシイギャラリーは2月25日(土)から3月25日(土)まで、掛井五郎の個展を開催いたします。
掛井は1950年代から、立体作品を軸に、油彩、ドローイング、エッチングやリトグラフなどメディウムや技法に捉われない自由な制作を精力的に続けた日本の戦後の彫刻家として知られています。当画廊での初個展となる本展では、晩年まで制作を続けた掛井の膨大な作品より、1970年代から2000年代にかけて制作された立体作品と油彩画を展示いたします。
1949年、戦後の混乱期に静岡から上京した掛井は、木内克の彫刻作品に出会います。後に「人生が始まった」と振り返るように、掛井はこの出会いをきっかけに彫刻家としての人生を歩み始めました。翌年、東京藝術大学彫刻科へ入学後、本格的に彫刻制作と向き合い始めた掛井は、アカデミックな技法には飽き足らず次第に石膏の直づけによって大胆なデフォルメを加えた独自の人体表現を追求するようになります。
1957年には「受胎告知」にて第21回新制作展の新作家賞を受賞し、その後も「処女マリア」(1958年)、「ヨブ」(1961年)、「使徒」(1962年)などキリスト教の信仰から生み出された作品を数多く発表しています。18歳で洗礼を受けた掛井にとって、聖書に由来する作品を制作することは、聖書の解釈の手段であるとともに、人間という存在の本質を問う自身の思索を表現する行為でもありました。また、掛井は、素材の多様化や若い世代の作家による自由な表現が大頭した1960年代の現代美術の新動向に与することなく、自身の制作のモチーフを極めて古典的な「人間」に拘り独自の具象表現を愚直に探求し続けました。
セザンヌの巨大な「女性水浴図」を見ても、不器用とも思えるほどに人体が変形して、自然と人間の風景画を作っている。人間はすべての基本である。人間をデッサンしなければ自然も理解できない。
-掛井五郎作品集、用美社、2009年より抜粋
1965年の第8回サンパウロ・ビエンナーレへの出品を機にアメリカ、トリニダード・トバゴ、ブラジル、メキシコを周遊した掛井は、中でもメキシコの彫刻に強く惹かれ、その後1968年から2年間メキシコに渡り大学で教鞭をとります。メキシコから帰国後の掛井の人体表現からは、肉体の表現に対する意識の変化による形態の単純化が見られ、以前のプリミティブな印象が薄まっているほか、キリスト教を主題としたモチーフからも徐々に離れていくなど、メキシコの文化や木彫制作に触れたことによる掛井の造形意識への様々な変化が見てとれます。1970年代以降には、引き続き肉体のボリュームが強調された屋外彫刻を多く制作していますが、84年から85年には、それまでに見られた量塊がそぎ落とされ、手足が大きく引き伸ばされた細?い体のバランスが特徴的な「人間の問題」シリーズを制作しています。<bR />また、家計が作品のモチーフとして何度も用いている最愛の母・ちやうの詩や、大病を患い長い闘病生活を経験した掛井は、1990年代以降の作品において、より豊かな人間味とユーモアの要素を表現の中に落とし込んでいます。70年に及ぶ制作活動の最晩年においてもその制作意欲は途切れることなく、既成の美術概念に捉われない独創的な作品の数々を残しています。