多くの人が行きかうエントランスホールの開放的な空間で、現代のさまざまな美術の姿を紹介してきたShizubi Project。第8回は、ガラスを素材に人間と自然環境の関係性を見つめてきた松藤孝一(1973-)の作品を展示します。
溶解炉のなかで変幻自在に形を変えるガラスに魅せられた松藤は、2011年の東日本大震災で発生した原発事故をきっかけにウランガラスを扱うようになりました*。大小様々な形の集合体は、ビルが整然と立ち並ぶ都市を思わせ、穏やかな佇まいをみせます。しかしそこにUVライトを当てると一転、怪しく蛍光色に発光します。相反するその表情や、行き過ぎた力が加わると割れてしまうガラスの脆さはそのまま、人間の関わり方次第で恩恵にも脅威にもなりうるウランそのものの危うさへとつながります。
本展では、松藤の代表作であるウランガラスによるインスタレーション《世界の終わりの始まり》や、希ガスを閉じ込めたガラス作品、さらに気泡ガラスをレンズにして静岡の風景を撮影した写真作品や波の音とガラスを組み合わせた新作も発表します。人間よりも遥かに長い歴史を持つ元素や自然と関り合いながら、世界の深遠さに迫り、自らの立脚地を探し求める作家の試みをご覧ください。
*作家が制作するガラス作品のウラン含有率は0.1%程度で、人体でカリウムが放出すると言われている放射線量とほぼ同程度です。