あなたは何をする人ぞ
片山 有佳子
右から左にいそいそと移動するカラフルな青いウサギや赤い鳥、それに白いガマガエル。波立つ水面を悠々と乗り越え、見得をきる動物たちは、みんなどこへ向かっているのだろう。
各々のリズムで揺れながら咲き誇る富士山サイズの桜や牡丹などは、今どこで咲いているのだろう。赤いお空や黒いお山、いきなり登場する縁起の良い垂れ幕や、空に浮かぶ古典文様は鮮やかで、これらのイメージはどうしたら湧いてくるのだろう。
それらのイメージは粟津さんの好奇心と行動力、そして日比野生活からくるものであるように思う。頭の中だけでイメージしたのではなく、テーマを決めたら各地に旅し様々なものを見て、人に触れ、取材し歩き廻って生み出されたものである。
お若い頃は大手広告代理店の営業をし多くの人々と会い、趣味の山登りで仲間達と国内だけでなく海外にも度々渡り、近くに大切な家族がいた。
都会はあまり好きではないようで、里山の生活やその中で大事にされてきたものを尊んだ。
美大生時代からきっとその前から、絵を描くことをずっと続けられてきた粟津さんオリジナルのある種の存在感や気迫が、一瞬軽やかに見える作品から伝わってくる。粟津さんが生きて感じ取り経験したもの、喜怒哀楽すべてがそこにある。それでいて動植物や私たちに向けるまなざしは、とてもやさしくポジティブで、見る私たちが明るくなり、元気になる。
絵の中に登場する生きるもの、自然や風景は実は永遠ではなく、時という一瞬の風のように束の間に出会い集まり、触れ合えたもの達なのかもしれない。気づかないけれど。
アートへの情熱の炎を、心の灯として燃やし続けてきた粟津さんの作品に、もう一度会いに行きたい!
●粟津尚子は2021年12月18日亡くなりました。