近代石版画のパイオニアである織田一磨(おだかずま)(1882-1956)。それまで東京や大阪で水彩画家・版画家として活躍していた彼は、1922(大正11)年の晩秋、山陰へ漂泊の旅に出ます。旧知の版画家・平塚運一に誘われ松江を訪れた一磨は、それから約3年間当地に滞在。宍道湖や中海などの美しい風景に触れ、また島根の青年画家たちと交流する中で刺激を受けた一磨は、いつしかこの地に美術研究所を開きたいという強い思いを抱きます。山陰でスケッチ旅行をしながら描き溜めた水彩画などを展示販売した資金をもとに、1925(大正14)年の夏、市内赤山に創作版画研究所を開設。その活動期間はわずか半年ながら《松江大橋雪景》などの傑作が生み出され、実りの多いものとなりました。
織田一磨来松100年を記念した本展では、近年収蔵された作品を含む当館コレクションを中心に、山陰での足跡をたどれる関連資料をまじえながら、この松江時代を振り返ります。