鳩をモチーフにヨーロッパや日本の風景を詩情豊かに描き
日本近代美術界の礎を築いた洋画家
櫻田精一(1910-1999)は、20代から30代にかけての初期、日本的洋画の作家大久保作次郎や小絲源太郎に師事、戦前は文展、戦後は日展に出品し、45歳時分は自然主義写実を自己の様式として確立している。
その作柄が目立つことになったのは、鳩の連作の時期(50~65歳)だ。鳩を飼い、鳩に凝った。鳩を通じ、絵画の抽象的な要素、面・点・線を考えていた。最良の充実期はそのあとに来る。特に70歳代が素晴らしい。ブリュージュ・奈良をモチーフに逸品を残した。いずれも余韻があって魅する。
80代では、晩秋の沼沢地などの枯れ寂びた情景に移り、老いた心境の表現となっている。
熊本に生まれ、朝鮮で幼少から青年まで過ごし、東京で画家生活に入るのが28歳 その5年後、疎開したのが縁で、終の栖は野田の地になった。
画業70年で、官展系洋画家として大成への道を歩むが、内なる美学は、若い頃から愛した朝鮮の陶器に通じ、自然さ、安らぎ、温かい人間味等の美的理念を志向している。
(美術評論家 瀧 梯三)
私が櫻田先生の作品に出会ったのは、先生宅を訪問した時でした。その年に千葉県立美術館で生誕100年櫻田精一展が開催され、野田市周辺の風景からブルージュを描いた作品など、画業70年にわたる櫻田作品の全貌を拝見する事が出来ました。素晴らしい展覧会でした。
櫻田先生は画壇の中心的存在として昭和の時代を代表する作家としてご活躍されました。2度の外遊の後、ベルギーのブルージュを描いた作品は櫻田先生の美意識を彷彿させる櫻田色ともいうべき色彩を持つ気品のある情景を描いています。地域での貢献も大きく、野田市文化功労表彰、千葉県芸術文化功労者表彰、地域文化功労者文部大臣表彰、1992年に勲四等瑞宝章、翌年には紺綬褒章を受賞されました。
櫻田精一先生の生涯にわたる作品を一堂に展示する本展覧会は当館にとりまして身に余ることではございますが、多くの方に先生の作品をご覧いただきたく開催できますことを大変光栄に思います。
展覧会開催にあたり、ご親族の皆様の全面的なご理解ご協力に対し心より御礼を申し上げます。
(森の美術館館長 森 忠行)