木田金次郎(1893-1962)の画業を通じて最大の出来事である「岩内大火」。1954(昭和29)年9月26日、「台風15号(洞爺丸台風)」による強風のもと発生した火災で街の8割が焼失、木田の自宅も罹災し、それまで約40年にわたって描きためた作品のほぼすべてを焼失するという悲運に見舞われました。
しかしここから木田は《大火直後の岩内港》を描き再起します。その後も活発な制作を重ね、二度にわたる全国巡回展を開催するなど、画家としての円熟期を迎えました。
この「大火後」の画風は、「大火前」から大きく変化したといわれます。自由奔放で大胆なタッチ、「青い太陽」の登場など、独自の画風を獲得したと評されるのは、大火後に制作された作品群です。
木田は1962(昭和37)年12月に69歳で亡くなったため、大火後の制作時期は8年しかありませんでした。大火前の約40年と比較してもごく短い期間ですが、この間の制作は、以前にも増して濃密な時間だったことは想像に難くありません。
今回の展覧会では、大火前から大火後へと、木田の画業全体を俯瞰し、大火の前後で変わったもの/変わらないものについて探究を試みます。
岩内で描き続ける生涯を送った木田にとって、大火の経験とは。木田の制作について、想いを巡らせる機会になれば幸いです。