光の反射は、ものを見るために不可欠な現象です。なぜなら、(自ら発光していない)ものの色や質感は、じつは反射の仕方の違いによって成り立っているからです。美術作品も例外ではありません。素材や技法の違いが異なる光の反射を生み出し、作品にさまざまな表情をもたらします。また、光を反射するもののさいたる例、鏡は古くから作品に取り入れられてきました。画中の鏡は画家の姿やその周辺を映し出し、作品の素材として用いる場合は鑑賞者や周辺環境を作品のなかに取り込みます。また比喩的に、世の中のあり方を顕在化させるという意味で、ある種の作品を鏡にたとえることもできます。
一方で、鋳造や版画、写真のように、形や図、像が反転するプロセスを介してわたしたちの前に姿を見せる作品もあります。そうした作品はたしかな存在感を持ちつつ同時に、いまはないもの/かつてあったものを指し示しもします。考えようによっては、存在と不在が対になっているともいえるでしょう。あるいは、表と裏、図と地、虚と実、ミクロとマクロなど見方を反転させる作品によって、いつもは見過ごしている領域への想像が広がることもあります。
作品に鏡を用いて見る人の姿を映し出すミケランジェロ・ピストレットや、もののかたちや考え方を反転してみせる岡崎和郎。自然と身体に向き合い、反射と反転を多用するジュゼッペ・ペノーネなど、本展では彫刻や写真を中心に、つくることや見ることのあり方を問いかける作品を展示します。