美濃加茂市民ミュージアムでは、開館以来「芸術と自然」をテーマに現代美術家を招き、滞在制作の成果を発表する展覧会、市民と作家の交流の場を提供するワークショップなどを開催してきました。今年度は岐阜県郡上市の出身で、現在は関西を拠点に活躍する美術家・日下部一司(くさかべ かずし、1953年~)を紹介します。
日下部は1976年に大阪芸術大学美術学科版画専攻を卒業、現在は同校の教授をしています。これまで版画やインスタレーション、既製品を用いたオブジェなど多様な手法によって、既にある物や風景についての認識を問う表現を続けてきました。近年は、風景を独特の視点で捉え撮影した写真作品を発表しています。
作家が目を留める風景は、町中や里山などの人々が生活している場の中に在ります。一見すると見過ごしてしまいそうな光景の中に存在する抽象的な形態、形や線の関係性、力の均衡などを見つけ出して、フィルムカメラで風景を切り取ります。そして「雑巾がけ」と呼ばれる古い彩色方法で作品に仕上げています。太い線に縁どられたセピア調の写真は、近代日本の古写真を想起させます。自作の鉄製フレームに収められた、一辺10cmに満たない小さな写真の数々。日下部一司が愛でる風景の作品群は、身の回りに広がる世界の新しい見方を鮮やかに提起するものです。
この展覧会のために作家は2022年8月に美濃加茂市民ミュージアムを訪れ、アトリエ棟に宿泊滞在しながら館の周辺や美濃加茂市内を歩き回り、撮影に取り組みました。今回はそれらの新作を含め、約100点の作品を展覧いたします。