ロバート・ライマンは、1930年にアメリカのテネシー州ナッシュヴィルに生まれました。
22歳のときにジャズ・ミュージシャンを志してニューヨークに移り、レニー・トリスターノに師事しますが、生計を立てるためにニューヨーク近代美術館の監視員となり、そこで目にしたマティス、セザンヌ、ロスコ、クラインといった画家たちの作品に深い感銘を受けて、絵を描き始めます。
それらは、手近にあった紙やカンヴァスに、鉛筆やペン、油絵具、グワッシュで描いた小品でした。
いずれも抽象的なイメージが描かれたものではなく、各々の素材がどのように作用しあうかを確かめるようにタッチが残されているのみの抽象絵画。そのほとんどが正方形のフォーマットに白の絵具を用いたものだったのです。
画家としてのライマンの仕事は、このとき自らによって決定づけられ、以後現在まで半世紀もの間、さまざまな素材・技法を用いてこの「絵画の演習」が続けられています。
「白はすべてを明らかにする」との言葉どおり、材料や筆跡がむき出しになった、ありのままでシンプルな絵画だからこそ、見るよろこびや画家の手法を味わう至福を、私たちひとりひとりにもたらしてくれるのです。
これまで、グッゲンハイム美術館、パリのポンピドゥー・センター、ニューヨーク近代美術館など、世界の主要美術館で個展が開催されてきましたが、日本では作品の紹介すらきわめて少ないままでした。
本展は、ライマン本人とニューヨークのペースウィルデンスタイン画廊の全面的協力により実現する日本初の回顧展となります。作家所蔵の作品を中心に、グッゲンハイム美術館、サンフランシスコ近代美術館などからライマン自身の目で選りすぐられた約30点が、ライマンによる会場構成で展示される予定です。