本展は、姫路市立美術館にて先に開催された「杉本博司 本歌取り――日本文化の伝承と飛翔」において現代美術作家・杉本博司が提示した「本歌取り」の概念へのひとつの応答として、当館自体が自館のコレクションを再検証する試みです。杉本は、和歌の作歌法「本歌取り」の手法を日本文化全般に通底する伝統的な美意識として捉え、また20世紀以降の美術に最も影響を与えた一人マルセル・デュシャンの「レディメイド」に独自の解釈を加え、洋の東西を超えて現代の世界を捉え直す壮大な思念の地平を展開しました。杉本によって拡張された「本歌取り」の概念を受け、本展では「本歌取り式 名画選」と銘打ち、コレクションの既存の解釈や価値の更新に挑みます。
京で起こった琳派の作品に私淑し、江戸琳派を開いた酒井抱一や、日本の伝統的な「やまと絵」様式の巻物を本歌とし、それを近代的な会場芸術に昇華させ新興大和絵を興した松岡映丘、アンリ・ルソーの名画を横尾ワールドに塗り替える横尾忠則、ルネ・マグリットの死後、彼の図像を本歌に作詩した詩人ルイ・スキュトネール、伝統的な概念「メメント・モリ(死を忘れることなかれ)」にテーマの源泉を遡ることができるジェームズ・アンソール、エドヴァルド・ムンクら西洋近代画家達。さらには、浮世絵の大首絵の影響を受けたとされるピカソ、ゴヤの版画に触発された浜田知明…。
時空を超えた影響関係を包含し、杉本の海景シリーズの代表作《日本海、隠岐》をはじめ《英仏海峡、エトルタ》、新作の《狩野永徳筆 安土城図屏風 想像屏風風姫路城図》と《性空上人像》の4点とともに、コレクション約90点を、本歌と本歌取りのダイナミックな地平に俯瞰します。