戦争、虐殺、テロリズム。20世紀、世界ではさまざまな惨事が引き起こされた。新しい世紀に突入してもいまなお、悲劇は絶えることはない。私たちは、高度に発達した通信手段によって、テロや爆撃など惨事のイメージをリアルタイムで受け取ることができる。しかし、衝撃の大きさが加速する一方で、そのイメージはすぐに色あせ、意味を考える間もなく消えていく。そして悲劇は繰り返される。 「コラプシング・ヒストリーズ」(崩れゆく歴史)はまさに失われゆく歴史に光を当てたアート展である。インディペンデント・キュレーターのアーロン・カーナーの呼びかけに共感した14名のアーティストたちが、太平洋戦争、ホロコースト、原爆使用、核開発、ベトナム戦争、同時多発テロといった悲惨な歴史的事実を題材に、アメリカ、日本、イギリスから作品を出展している。参加するアーティストのほとんどは、題材となる歴史的な悲劇に対して直接的な体験を持たない世代の人々である。一部のアーティストたちは、親がこういった惨事を実体験しており、その体験談がきっかけとなって作品を製作。絵画、写真、映像、オブジェ、インスタレーションと様々な表現手法で、彼らは歴史的惨事と向かい合い、埋没していくイメージの「発掘」「発見」を試みている。海外アーティストの多くが日本で初めての作品発表であるとともに、日本からは中ハシ克シゲとヤノベケンジが参加する。 本展はすでにカリフォルニア大学サンタクルス校で公開され、大きな反響を呼んだ。日本においては、第五福竜丸展示館とギャラリー・エフという会場がこの展示をさらに特別なものにしている。第五福竜丸展示館は、ビキニ水爆実験被災から50年を経た木造漁船・第五福竜丸を展示する歴史的な資料館。そして、ギャラリー・エフは関東大震災と東京大空襲を生き延びた土蔵を活用したアートスペースである。歴史の証人とも言える2会場は、本展の意図にふさわしい場所であるといえよう。