昨年3月に満100歳で亡くなった、和歌山県田辺市出身の日本画家、稗田一穗(1920-2021)の回顧展を和歌山県立近代美術館と田辺市立美術館の共同で開催いたします。
10代半ばで日本画家を志した稗田は、東京美術学校に学び、戦後、本格的に画家としての活動をはじめました。鳥を主要なモチーフとした、生命を寿ぐような素朴で力強い表現や、世界的な絵画動向を意識しつつ画材の特質も発揮した画面構成は、日本画の地平を拓くものとなります。
また60歳を迎える頃よりは、故郷、和歌山の熊野の地をモチーフにした、悠久の時間を想わせる荘厳な風景と、長らく生活を営んだ東京の成城の町をモチーフにした、詩情あふれる日常の風景が主要なテーマに加わり、個々の作品はもちろん、あちらとこちらを行きかうなかで、見る者を深い思索と想像に誘う独自の世界観を築きます。
田辺市立美術館の会場では、各時代の主要な作品を通して稗田の画業全体をふり返ります。また熊野古道なかへち美術館(田辺市立美術館分館)の会場では、熊野の地をテーマにした作品を特集して紹介します。80年以上を日本画の研究に費やし、戦前から戦後の絵画に大きな足跡を残した画家の画業を改めてご覧いただくことで、故人を偲ぶ機会といたします。