ヒノギャラリーでは2022年10月17日(月)より「多和圭三 新作展」を開催いたします。
多和圭三は鉄を主材に制作を続ける彫刻家です。その素材との関わりは50年になろうとしています。本展でも時間を纏った廃材(スクラップ)の鉄を用いた新作を発表いたします。
今回展示するうちのスクラップによる3点は、重力の作用からくる「点・線・面」を意識した作品になっているといいます。廃材の鉄板を溶断・溶接し重ね合わせ、立方体の鉄塊を作り、それらを積み上げたものを「点」「線」として、また、さらに薄い鉄板を重ね接合させた作品を「面」として、ひとつの部屋に配置し空間構成を試みます。
多和は鉄を中心に扱う以前、素材、特に自然物に直接手を加えることを好まず、枕木や玉石などをそのまま並べ、積み上げるなどしたインスタレーションを手がけていました。そこには学生時代に衝撃を受けたという「もの派」の影響も大いに含まれることは想像に難くないのですが、当時は最小限の自身の行為の目安として、水平や垂直といった構造としての要素、また質量や重力といった物理的な要素を取り入れていたといいます。今や彫刻という概念が、物質の形態だけを意味せず、その内外の空間全体によって知覚されるようになったことも、作家の制作には大きく作用しているように感じます。
そうしたアプローチは、なにも手法や素材が変化したからといって変わるわけではなく、多和の物質に対する営為はきわめてシンプルな「ものが在ること」のエレメントによって導かれています。水平・垂直もその一つのファクターであり、鉄の作品においては、重力の観点からもそれらは直截的です。今回発表する「点・線・面」の作品もまた、そうした働きかけによって構築されており、それらがひとつの空間に展示されることで、より個の存在が明らかに、揺るぎのないものとして映し出されます。この世に在るすべてのものは絶対的な構造(自然)の中で絶えず連関しながら成立していることを、多和の作品は示唆しています。
前回の弊廊での個展は2020年1月。多和が11年間勤めた多摩美術大学彫刻学科の退職記念展として開幕し、ちょうどコロナの波が押し寄せる間際に幕を閉じました。それから世界は一変しましたが、作家の眼差しは変わることなく、ただ静かにものと向き合ってきました。そんな中で生み出された多和圭三の新作、是非ご高覧ください。