このたび、奈良県立万葉文化館では特別展「こもりくの初瀬(はつせ) 祈りのかたち」を開催いたします。
奈良県桜井市初瀬(はせ)は『万葉集』に「隠口(こもりく)の」の枕詞(まくらことば)を冠(かん)してよばれた「泊瀬(はつせ)」にあたり、「こもりく」とは周りを山々に囲まれた隠れた土地の意で、古来神々が鎮(しず)まる神聖な地とされてきました。奈良時代にこの地で創建された長谷寺(はせでら)は、十一面観音信仰を基盤として、中世にかけて春日信仰(かすがしんこう)や伊勢信仰(いせしんこう)と深く結びつき、発展を遂げていきます。また、長谷寺と初瀬川(はせがわ)を挟(はさ)んだ対岸には初瀬(はせ)の町を守護する「与喜(よき)の神」を祀(まつ)る與喜天満神社(よきてんまんじんじゃ)があり、天神信仰(てんじんしんこう)との結びつきも知られています。このように、初瀬(はせ)地域は神々が鎮(しず)まる霊場という地理的役割を素地(そじ)として、独自の信仰世界を築いているといえます。
本展では、長谷寺(はせでら)ゆかりの宝物を中心に展示することで、初瀬(はせ)の地域で育(はぐく)まれ息づいている豊かな文化や歴史、信仰の様相(ようそう)をひもといていきます。